アトリエより 編集者のブログ

2023年の出版市場

1月25日付で、「2023年出版市場(紙+電子)は1兆5963億円で前年比2.1%減、コロナ前の2019年比では3.4%増 ~ 出版科学研究所調べ」と題する記事が、HON.jp に掲載されました。
昨年の出版状況を俯瞰する興味深い記事です。

https://hon.jp/news/1.0/0/46198

小さな出版社で、特定の領域の学術書を扱っている小社のような出版社でも、出版界の大状況とちゃんとリンクしているのは、不思議なくらい。
そうだろうなぁと納得できるデータです。

・紙の書籍の市場は、相変わらず微減を続けているが、コロナ禍以前に復旧している。
・書籍の電子出版は、むしろ減っていて、全体の売上も下がっている。

コロナ禍で、「これからは電子だ」と雪崩のように電子化に向かう気運がありましたが……
過ぎてみると、「あれはいったい何だったの」?
以前は、「電子はないんですか?」と聞かれることもあったのですが、それもほとんど無くなりました。

紙か電子かについて、わたし自身は、本の購入は紙の本が9割。1割が電子といったところでしょうか。
電子書籍はテキスト主体の本だけで、一度読んで終わり、ページを繰って前を読み返したりする内容でもない、というとき。

電車の中では、電子はありがたい。
でっかい字で、隣の人に見られたらちょっと恥ずかしいな、と思いながら読んでいます。
コンタクトレンズや薄暗がりは、紙本に弱い。年齢がばれますね。

ただ、電子で買って、あとで紙を買い直す、ということも時々おこります。
結局不経済なので、買うときに一瞬、考える。どっちにするか。

話題の本、情報のチェックなら電子で十分ですが…… 
読みながら考えるのは、やはり圧倒的に紙がいいです。

2024年のはじめに

令和6年、新しい年の元旦に、能登半島の震災の報に接しました。

「新年おめでとうございます」とご挨拶するのが躊躇われるようなお正月でした。

被害の甚大さ、被災された方々の悲嘆の声に、言葉もありません。

被災地に一刻も早く必要な支援が届きますように。 
支援にあたっている方々の安全が守られますように。
心よりお祈り申し上げます。

*****

小社では昨年、下記の書籍を刊行することができました。

【スポーツ・健康科学】

『健康論 -大学生のためのヘルスプロモーション』電気通信大学健康・スポーツ科学部会(編)
『健康・スポーツ科学の基礎知識〈第4版〉』スポーツサイエンスフォーラム(編)
『体育の学とはなにか』林洋輔(著)
『キャンプセラピーの実践 -発達障碍児の自己形成支援』坂本昭裕(著)


【音楽】

『楽譜の校訂術 -音楽における本文批判:その歴史・方法・実践』J.グリーア(著)高久桂(訳)
『オルガンの芸術〈第2版〉』日本オルガニスト協会(監修)


購読者の方々、そして著者・訳者のご支援と励ましの賜と思い、心より御礼申し上げます。


今年も1冊1冊、大切に作ってまいりますので、どうぞよろしくお願い致します。

神保町ブックフェス2023

今週末、10月28日・29日の土日に、「本の街」東京・神保町でブックフェスティバルが開催されます。
https://osanpo-jimbo.com/info/5349873

小社は「参加出版社」ではないのですが…
もしお出かけになる方がいらっしゃいましたら、すずらん通りの共同書店 PASSAGE by All Reviews  に小社の棚がありますので、ぜひお立ち寄り下さい。

この数年に刊行したほとんどの書籍(スポーツも音楽も)を展示・販売しております。
道和書院の棚は、PASSAGE に入って左、奥のテーブルの少し手前です。


【すずらん通りの共同書店 PASSAGE by All Reviews】

■店頭の様子

■PASSAGE 内の道和書院の棚

■棚主紹介ページ
https://passage.allreviews.jp/store/BXI2A2D5R27QHRSBGIAUAR5M

 

【ブックフェスの概要】

本の街の本まつり
第31回 本の街 神保町ブックフェスティバル

日時 
2023年
10月28日(土)10:00~18:00
10月29日(日)10:00~18:00

会場
神田すずらん通り、さくら通り、神保町三井ビルディング公開空地

協賛
第63回 東京名物神田古本まつり 
10月27日(金)~11月3日(金・祝)

スポーツ分野の新刊2冊

秋は来るのか来ないのか。
待っているうちに9月が終わってしまったような…… 
今年もあっという間に10月。やれやれです。


8、9月に出た新刊2冊、いずれもスポーツ分野ですが、好評です。

『体育の学とはなにか』林洋輔(著)は、8月末に同志社大学(京都)で開催された日本体育・スポーツ・健康学会で初お披露目となりました。
わたしは現地入りできなかったのですが、販売所ではたいそう目立つ扱いをして頂き、これまでにない成果を収めることができました。
ご担当の紀伊國屋書店梅田本店の方々、そして他社の営業担当の方々のご厚意に、心から感謝です。

(学会販売所にて。初日の昼に、現地入りした他社の営業担当の方が送って下さって、感激しました)


『体育の学とはなにか』関連記事↓
https://www.douwashoin.com/blog/%e6%96%b0%e5%88%8a%e3%81%8c%e3%81%a7%e3%81%8d%e3%81%be%e3%81%97%e3%81%9f/



9月下旬刊行の『キャンプセラピーの実践――発達障碍児の自己形成支援』坂本昭裕(著)も、多くの書店から事前注文を頂きました。

油断して、ネット書店では早々にカート落ちの事態となって焦りましたが;;
幾度かの追加注文にも対応し、現在は「翌日配送」の通常モードになっています。

野外での「冒険プログラム」で、身体を動かし、知恵をしぼり、「仲間」と一緒になってサバイバルする。
その経験が子どもたちに及ぼす影響ははかりしれないと感じます。

後半の事例研究は読み応えがあり、風景構成法(LMT)に見られる子どもの変化は、素人目にも明らか。
今後の発展を願いつつ、広報・販売に精出しております。

『キャンプセラピーの実践』関連記事↓
https://www.douwashoin.com/blog/9%e6%9c%88%e3%81%ae%e6%96%b0%e5%88%8a/


(片桐 記)

 

パイプオルガンの国際コンクール

第9回 武蔵野市国際オルガンコンクールが開幕しました。

https://www.musashino.or.jp/iocm/1002196/

 

小社は特別協賛として、ささやかながらサポートをさせて頂いております。


ロビーではGAUDEAMUSさんがオルガン関連の楽譜や本を販売されます(9/9-10, 17-18)。
小社刊行の『オルガンの芸術〈第2版〉』と『オルガン奏法』も販売して頂くことになっていますので、聴きに行かれる方はぜひお手にとってご覧下さい。

『オルガンの芸術〈第2版〉』
https://douwashoin-books.shop/items/643e4ee473ce6e0029335219

『オルガン奏法』
https://douwashoin-books.shop/items/63646d09f3de5c413fc293cc


広告出校、協賛、法人会員等々、音楽分野でもスポーツ分野でも、各種のお誘いを頂きますが、小規模の会社ゆえ、お応えできないことも多々あります。
サポートできればという気持ちはあり、お断りするたびに苦しい思いをしていますが…
限られた資金はできるかぎり「次に出す良書」の制作費に充てたい。御寛恕を願う次第であります。


今回の協賛は、しかし、特別な思いがありました。
パイプオルガンの関連書2冊を刊行するにあたり大変お世話になったオルガニストの松居直美先生のご紹介、そして会場が武蔵野市民文化会館だからです。

選りすぐった企画と、気迫のこもったチラシ(!)で有名な武蔵野市民文化会館。
武蔵野市は小社の隣の市ですので、ほとんど「地元民」の気分。
かねてから尊敬の念をもっておりました。

古楽関連の公演を聴きに出かける機会も多いですし、パイプオルガンはなじみの響き。

盛会を心から祈りつつ、わたしもできるだけ伺うつもりでいます。
(片桐)

9月の新刊

9月25日発売の『キャンプセラピーの実践:発達障碍児の自己形成支援』の書誌情報を公開しました。

著者は、野外教育の専門家であり臨床心理士・公認心理師でもある、坂本昭裕氏(筑波大学教授)。

下記は、小社オンラインショップの販売ページです。
https://douwashoin-books.shop/items/64eda771fe1d6b002c3f3a78

 

発達になんらかの障碍があり、いわゆる「生きづらさ」を抱える子どもたち(とその親御さんたち)を支援する。
その一つの手段として、音楽もスポーツも、はかりしれない貢献ができると思っています。

いずれ関連書を出したいと願っていましたが、ご縁があってまずスポーツ分野で、坂本先生の長年の蓄積に基づいた知見を、書籍の形にすることができました。


キャンプ・ブームと言われる昨今。
「癒し効果」をうたった野外体験ツアーなども出てきているようですが……

効果をエビデンスとして示すのは難しい。
アメリカでも日本でも、支援に携わる人たちがその難しさを引き受けつつ、長い時間をかけて研究と実践を蓄積してきたそうで、本書ではその試行錯誤の歴史に触れることができます(第1部)。

第2部では、実際のキャンプセラピーの概要と冒険プログラムの内容、そして効果を数値として示す研究がまとめられています。

第3部は、ASD児、ADHD児の事例を経過にそって詳細に記録した質的研究。まるで自分もキャンプに参加しているかのような臨場感、説得力。

このキャンプセラピーでの体験は、決して一過性ではなく、その後の人生に少なからぬ影響を及ぼすのでは…… と共感しました。

自分の子ども時代を振り返ってみても、何かというと思い出される「あの時のあの人の、言葉・声・表情」がいくつかあり、それが陰に陽に人生の道筋を決めてきたように思います。

真剣にならざるを得ない、自然の中での冒険プログラムだからこそ、参加者同士で、カウンセラーとの間で、交わされる言葉や心の交流は、深く心身に刻印されるはずだと思いました。


本当に助けを必要としている子どもたちとその親御さんに、専門家の知見と技術に裏づけられたキャンプ・プログラムがあることを伝えたい。
これは書籍という媒体だからできることかもしれない、と感じつつ、編集作業を進めておりました。
(片桐)

新刊ができました

スポーツ(+体育+健康科学)の分野の新刊ができました。

体育哲学をご専門とする林洋輔氏(大阪教育大学)の456ページの大著『体育の学とはなにか』です。

内容の詳細は、下記の小社オンラインショップの販売ページをご覧ください。
https://douwashoin-books.shop/items/64c4649bf5e140007c7371ef

 

林氏は、すでに2014年に小社より『デカルト哲学と身体教育』を上梓されています。

わたしはその頃はまだ道和書院におりませんでしたから、当時の編集・出版の様子を知らないのですが、道和書院に移って以来、既刊書をできるかぎり読んできた中で、最初期に読んだ1冊が林氏の『デカルト哲学と…』でした。

あのデカルトが「体育」に関わっていたのか!という興味からですが、なにしろ未知のスポーツ分野、これ以上ないほど硬派の学術書。読み通せるかなぁと我ながら危ぶみつつ、しかし新鮮な内容に引き込まれて最後まで一気読みしてしまいました。

今回、思いがけず2冊目の企画のお話があったとき、何よりもその気宇壮大なテーマに驚き、それに真正面から取り組もうという著者の気概に、なんというか… ひとことで表現するなら、感動しました。

それならば。
出版社としてできることは、内容をできるだけ洗練させることはもちろん、その気概にふさわしい形を考えること。
美しく力強い、哲学書として造本しよう。
というわけで、当方も真正面から取り組みました。

体育の学問について、その始まりから現在まで、16の専門領域があるという幅広い研究のありようを、編集作業を通じて学ぶこともでき、感謝しております。


久しぶりの上製(ハードカバー)・角背。
思い切りのよい単色の装幀は、デザイナーの高木達樹さんの創意です。(片桐)




『デカルト哲学と身体教育』についてはこちらを:
https://douwashoin-books.shop/items/6369f854c15c5a70fa06343a

嬉しい第3刷

2020年1月に刊行した『オルガン奏法』の第3刷ができあがってきました。
編著者は作曲家・オルガニストの近藤岳さん。
梅干野安未さん・松岡あさひさんの作曲作品も収録されています。

初級から学べるパイプオルガンの教則本です。
そのような内容の本が版を重ね、たくさんの方に活用して頂けていること、しみじみ嬉しく、感謝の気持ちでいっぱいです。

 

内容は下記を見ていただくことにして、ここでは造本についてすこし…
https://douwashoin-books.shop/items/63646d09f3de5c413fc293cc

 

この本は大型のA4判、楽譜もたくさん入った教則本です。
切付表紙といって、カバーなしの表紙のみ、それにツヤpp(コーティング)の加工をして仕上げています。
切付表紙に使える用紙は限られていて、かつては白い用紙でも印刷すると発色が悪く、黒ずんで見えてしまうという難点がありました。現在はそれもだいぶ改良されてきたという印象です。
本文の用紙は、譜めくりのしやすいよう「しなり」のよい紙を選びました。
そして譜面台に置いたときに閉じてしまわないように、「開きのよい」PURという製本法を使っています。

 

 

表紙のデザインは高木達樹さん。
装画は、このところ羊毛フェルトの作家としても活躍されている北原のり子さんです。

画像は、オモテ表紙からウラ表紙へ、ひとつながりになっている装画をお見せしたいと思って掲載しました。

ただし… 『オルガン奏法』をもう持っている方なら、ん?と違和感を感じるかもしれません。
この画像では、ウラとオモテに2羽いる鳥が、黒色になっています。
当初はこういう案もありました。
現行の本では、すこし柔らかく、グレーの鳥たちになっています。

どのような装いにするか、それもまた、内容を表現する大事な要素です。
装幀は、本文がいよいよ校了という佳境で、並行して進む工程なので、楽しくも苦しい、最後の山場。
こんなふうに素晴らしい装画・装幀ができてくると、それまでの苦しさがすべて吹き飛んでしまいます。

わくわく・どきどきが入り交じった、最後で最高の山場です。
(片桐)

 

ご参考までに… 北原のり子さんのインスタグラムはこちら:
https://www.instagram.com/kemono_klnikke/

「負の影響」

8月の新刊を校了にして、ほっとする間もなく、次の本の作業を進めています。


すこしひと息入れるとか、遊ぶとか、すればいいのに! という気持ちもありますが……
お待たせしている企画もいくつかあり、おちおち休んでもいられません。

それ以上に、やはり、仕事したいんでしょう。
きっついなぁ…… と呟きつつ、次の新しい原稿と向き合うのは楽しい。
出来上がりの姿を思い描き、組入(印刷所への入稿)のための原稿整理を進めるときが、いちばん楽しい時間かもしれません。

ところで、最新号の『新文化』(2023年8月3日付 第3475号)に、気になる記事がありました。
最終面の「海外 Radar」今回は〈イギリス〉編です。

初めて著作を出版した新人作家に対し「ブックセラー」誌がアンケートをしたところ、ストレスや不安など「負の影響」が大きかったと答えた人が半数を超え、良い体験だったと答えた著者は、わずか22%だった、とのこと。
主に出版社のサポート(コミュニケーション)の不足が原因、と書かれていますが……

どきっとしました。

コミュニケーションは十分に取っているつもり、むしろ丁寧すぎ細かすぎ、「そんなことまで説明しなくても…」と自分を戒めているくらいですが。
こちらは「わかっているつもり」のことでも、あちらにとっては初めての局面、細かく言われて右往左往し精神的にダメージを受ける、ということは、あるかもしれない(汗)。

メールの文面がくどくどしてはいけない。
有能な著者・訳者の方ほど、忙しい。煩わせてはいけない。
さっと読んでポイントがすぐわかるように。返事がしやすいように。

そう思って、しかし結果的に不躾に、切迫したようなメールになっている…… 
うーーん。あるかも。

せっかくの出版の機会。
できるだけ、出版界の状況や、出版社(編集者)の考えていること(論理)、それをわかって頂ければ嬉しい。
ベストセラー作家ならともかく、生涯で何度かの貴重な体験のはず。
できるだけ楽しんで頂きたい。
そしてこの先、他の出版社(編集者)さんと仕事をするときに役立つように……

そう願ってはいるものの、受け止め方は人それぞれ。
「ああ、ヒドイ目に遭った……」と思われないように、これからも精進致します。(片桐)


『新文化』
https://www.shinbunka.co.jp/

 

ブログ再開

久しぶりにブログを更新します。

この数か月、「嬉しい悲鳴」ではありますが多忙に過ぎ、加えて、思いがけない事故で大ケガをしたりして、いまだに仕事の遅れでご迷惑をおかけしております。しかしこれ以上、ブログもSNSもだんまりを決め込むわけにはいかず……… 意を決して(?)再開です。

8月は小社の期末、2018年12月に事業承継・法人化してから5期目の決算を迎えます。
この1年、刊行した新刊は7点。作業が比較的楽だった改訂版を除くと、実質は6点というところでしょうか。いずれにしてもこの5年で最多の刊行点数となりました。事業承継後の社内インフラの整備が進み、編集制作により多くのエネルギーを注げる環境が整ったということかもしれません。

この1年の出版界全体の状況として、(1)2022年初秋から返品が増大。そして閉店する書店がますます増加。建替・再開発による閉店もありますが、コロナ禍の影響も広く深いことを感じずにいられません。(2)同じ頃から、用紙・印刷の経費が何度かにわたって値上がり。運送費も。コロナさえ脱すればと思っていたのに戦争とは、全くもう! でも要因はそれだけではないので、今後も好転は望めないことは覚悟しないと、といったところです。

出版したいと思う本の傾向からして、会社のサイズはできるだけ小さく保つことを考えていました――たとえ苦しくても、侮られることがあっても。全体状況を考えるとそれは確かに正解なのですが、ただし、仕事の遅れでご迷惑をかけるのは良くない。改善を急ぐべきなので、6期目は次の5年に向かっての基礎を作りたいと思っています。(片桐)

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