アトリエより 編集者のブログ

『「記録の神様」山内以九士…』 著者・室靖治さんに聞きました

山内以九士(やまのうち・いくじ)の評伝が好評です。著者の室さんに、改めて、今の心境をおうかがいしました。

Q)発売(6/30)から2ヵ月経ちましたが、各紙で紹介記事が出て、大変な反響ですね。本が出る前と後で、心境の変化はいかがですか?


発売の2週間ほど前、見本を手にした時の感激は忘れられません。原稿としては何度も書き直し、読み直してきましたが、本になってページをめくると、まるで違う新鮮な印象でした。「レコナー」が主役の素敵な装幀。ナイツのお二人による絶妙なやり取りが載った「帯」。とてもいとおしく感じました。

達成感で脱力していたのですが、片桐社長から「むしろこれからですよ」と言われ、「ええ~?」(笑)。この本を一人でも多くの野球ファンに知っていただこうと、さっそく気持ちを切り替えました。SNSでは新たにインスタとツイッターを始めました。本に書いていない小ネタも満載ですので、ぜひご覧ください。


Q)山内以九士氏について、出版後に新たにわかったこと、さらに深堀りしたいことなど、出てきましたか?


本をきっかけに、生前の山内を知る方と知り合いたいと願ってきました。先日、ある方とのご縁ができて感激しています。スポーツ新聞社に勤めていたごきょうだいと一緒に、山内を自宅に訪ねたことがあるそうです。近々お会いし、私の知らないエピソードをお聞きできることを楽しみにしています。

山内が心血を注いだスコアカードの現物も見てみたい。これらは日本野球機構に保管されていますが、コロナ禍の制約でまだ閲覧できていないのです。


Q)さて、これからは? ぜひ新たなテーマを見つけて取材執筆をと思いますが、いかがでしょうか?

新たなテーマとは違いますが、原稿を書きながら漠然と考えてきたことがあります。山内が雑誌などに寄せた文章を、時代やテーマ別に読みやすく整理し、1冊にまとめることです。山内は「レコナー」(打率早見表)を作り、パ・リーグ年報を長年編集しましたが、愛弟子の宇佐美徹也さんや千葉功さんのように野球の記録に関する読み物を出版した経験はありません。「お、そのアイデアいいね」と声をかけてくださる出版社が現われることを、ひそかに期待しています。

 

【紹介記事一覧(書店の方に向けた広報ページです)】
https://www.douwashoin.com/for_bookstores/

【お勧め:読売新聞オンラインの記事】

1)「プロ野球界で「記録の神様」と呼ばれた祖父・山内以九士、その生涯を調べたら」(執筆:室靖治。書籍未掲載の写真あり)
https://www.yomiuri.co.jp/sports/npb/20220721-OYT1T50210/

2)写真集:プロ野球「記録の神様」山内以九士と球界スター名場面
https://www.yomiuri.co.jp/s/ims/yamanouchiproject/

【書籍の内容紹介】
https://www.douwashoin.com/%e3%80%8c%e8%a8%98%e9%8c%b2%e3%81%ae%e7%a5%9e%e6%a7%98%e3%80%8d%e5%b1%b1%e5%86%85%e4%bb%a5%e4%b9%9d%e5%a3%ab%e3%81%a8%e9%87%8e%e7%90%83%e3%81%ae%e9%9d%92%e6%98%a5/

 

第4期の終わり

2018年12月に道和書院の事業を承け継いでから、この8月で4期目の締を迎えようとしています。
道和書院は1969年の創業ですから、すでに50年余の歴史がありますが、事業承継で株式会社にしてから第4期、というわけです。

順調に伸びていた事業でしたが、第2期半ばの2020年3月にコロナ禍に遭遇。なぜかその直後、ちょっとした体の不具合も発覚したため、この2年ほどは新刊の刊行を抑え、最低限の仕事のみを優先させる日々でした。

コロナの出口が見え始めた昨年秋、遅れてしまっていた企画をそろそろ形にせねばと、ようやく動き始めました。
主にスポーツ書の編集に忙しくしていましたが、しばらくぶりに音楽に戻り、これから何冊か、音楽の新刊が続きます。
スポーツと音楽、そして一般向けにできる限り「開かれた」本と、専門家向けの研究書。異なる世界を行ったり来たりですが、楽しんでやっています。

今年の出版界は、4月頃からでしょうか、コロナの打撃がますます露わになってきた観があり、そしてまさかのヨーロッパでの戦争。原材料の高騰で、制作面でもひときわ厳しい状況になっています。

正直にいえば、せめてコロナ前にあと2、3年は欲しかった。そして体の不調など気にせず思い切り仕事できる期間も。そうすればもう少し、会社としての体力がついていたはずだ、という思いはあります。

ただし生来、順境よりも逆境に強い性格。我ながら、その点は実にありがたい。さて、9月からの第5期。どんな1年になるでしょうか。

(片桐文子)

悪夢の誤植

誤植とはなぜか、新しい本ができあがって嬉しくて、にこにこしながらページを繰っている時に限って、ぴかりと光るように存在を主張する。

誤植の神様、などというものは居ないとは思いますが… 
そういう時は、何者かの満足げなくすくす笑いが、確かに聞こえる気がします。

今回の新刊(ハイニヘン)、内容には関わりがないのですが、たいへん派手な、最高にみっともない、誤植が一つ、ございます。
実は年末に見本ができた時すでに、わかっておりました。
さる取次のデータ登録担当者から連絡を受けて判明。
出先から戻る途中にスタッフからスマホにメッセージが来て、「血の気が引く」とはこのことか、と。
戻って確かめるまでの30分間は、忘れられない。

いかにもありがちな、製作の最終行程での誤植発生。
最も神経をつかう作業が終わり、半ば「自分の手を離れた」段階のことで、注意が散漫になっていたものと思われます。
しかし校正は確かにしている私。言い訳のしようもなく… 落ち込みは半端ないものでした。

編集者生活30年(!)、ありがちな、笑い話になるようなミス、しかしこれまでは辛くも免れていたミス。
痛恨です。

ご購読の方には大変申し訳ない次第ですが、この誤植ゆえの返本、交換は致しかねますので、ひらにご容赦願いたく…

(片桐文子)

 

【山梨県某所にて。南天の花が綺麗でした】 

ハイニヘン「新しい通奏低音奏法」、今日から販売開始です

あけましておめでとうございます。
長びくコロナ禍、またまた新顔(オミクロン)が悪さを始めて心配ではありますが…
一つずつできることを積み重ねて、明るい方へ、明るい方へと進みたいと思います。

ハイニヘン著「新しい通奏低音奏法」(1711年刊)の「全訳と解説」、本日より、小社のオンラインショップで販売を開始します。
通奏低音を独学でも習得できる、徹底して実践的な教本であると同時に、18世紀初頭の音楽家たちが何を考え、どのように創作・演奏に取り組んでいたかをうかがうことのできる、貴重な史料です。

通奏低音の装飾音はどのように付けるのか、数字が付されていない低音から和音進行をどう組み立てるのか。
教会での音楽のみならず、劇場での演奏、とくにレチタティーヴォの伴奏をどのように行うのかといった、現場の音楽家たちが知りたいと思う具体的な課題に、多くのページが割かれています。


私が非常に興味深く読んだのは、巻頭の「序文」におかれた「インヴェンツィオの創出」でした。
インヴェンツィオとは久保田慶一先生の注釈で「弁論」の「修辞的な図式」における、語りだしの「着想」にあたるもの。まずはそれをどう創出するかが、巻頭から楽譜例をあげて詳細に語られています。

かのヨハン・セバスティアン・バッハが「2声のインヴェンション」を作曲したのは1720年代の初め。
当時の音楽家たちの最先端の話題であった「インヴェンツィオの創出」をめぐる、バッハなりの一つの「解」ではなかったか。
さまざまな想像をかきたてられます。
歴史的な史料に接する面白さはこういうところにあります。

今回の「全訳と解説」は、本当はもっと大判の(B5かA4か)サイズにして、譜面台に置いて実際に弾きながら読み進めるようにしたかったのですが、製作のコストや出版後の管理の面を考慮し、やむなくA5としました。
「使いにくい」本で申し訳ないのですが…


せめてもの工夫で、開きのよいPUR製本を採用しています。表紙(カバーを取り除いた後の青い紙)が少々硬めの用紙なので、最初にすこし力を入れて、本を柔らかくほぐすように真ん中から開いてください。そうするとページが開いたまま戻らなくなって、読みやすくなります。

(片桐文子)

ハイニヘンの本邦初訳、発売日が決まりました

ハイニヘンの『通奏低音奏法』、編集作業もようやく峠を越しました。
今年の秋の刊行を予定していましたが、諸般の事情で、来年の年頭の発売と致しました。
刊行を心待ちにして下さっている方々には、誠に申し訳ない次第ですが、どうぞご容赦ください。

諸般の事情の一つに、ハイニヘンの原著そのものが、多数の譜例も含めて誤植がたいへん多く、修正のために予想以上に手間取ったことがあります。

そしてもう一つは、解説・付録・人名索引等、本編以外の比重の大きい翻訳書のため、「全訳」の部分を推敲し磨きあげる過程で、それと連動して、解説や付録の内容・表記も見直していく必要がありました。最終的に、総頁324ページのうち「全訳」は220ページ、その他はすべて久保田慶一先生の編・著で、まさに労作の名にふさわしい本です。

誤植について、ハイニヘンの名誉のためにひとこと。
彼は弱冠28歳でこの本を出版していますが、ハンブルクのベンジャミン・シラーという出版者からの依頼を受けての執筆だったようで、それはハイニヘンがザクセン選帝侯の宮廷楽長(ドレスデン)になる前後のこと。就任後ほどなくイタリアに赴き、そこで数年を過ごすことになったため、おそらく、書き上げた原稿をシラーに託してイタリアに旅立ち、著者校正はできないまま出版されたものと想像されます。彼の生涯でもいちばんの環境激変、多忙な時期だったと思われ、無理からぬことと感じます。

ちなみに出版者シラーは、ハイニヘンのこの本の2年後にマッテゾンの『新設のオルケストラ』を出版しています。シラーをはじめ、数多の出版者が音楽史で果たした役割に思いを馳せ、共感と興味をかきたてられます。(誤植が多いのは遺憾ではありますが、ただこの本の場合、著者校正のないまま出版しなければならなかった編集者にも、同情の余地が多分にあります。そのくらいハードルの高い、音楽家ならではの、演奏現場に即した内容だからです。)

諸般の事情の三つめは(言い訳がましいですが、まだ続きがあります)、この翻訳書には、実は2冊分の内容が込められることになったから、です。

ハイニヘンはおそらく、短期間で書き上げて(?)誤植が多く残ってしまった自分の初めての著作に対し、忸怩たる思いを抱き続けたにちがいありません。後年、この本の増補改訂版とも言える『作曲における通奏低音』を、今度は自費出版しています。それは彼が46歳で早世する前年のことで、もしかしたら体調も悪いなか、なんとしても出版したいと命を削るようにして執筆・校正をしたのかもしれません。

実はハイニヘンの「主著」として後世に名高いのはこちらの方なのですが、しかし、1,000ページに迫る大著を邦訳出版するのは現実問題として難しい。そこで、前著の『新しい通奏低音奏法』のほうをプロトタイプと捉え、まずはハイニヘンという人物と音楽論を知ってもらうことを主眼に翻訳出版をしようということになりました。

ただし、後年の著作でどのような増補改訂が為されたのかは誰しもが興味を持つところ。そこで、久保田先生が「解説」の多くを費やして1711年版と1728年版を比較検討し、増補改訂のポイントを整理して、ハイニヘンの音楽観の変化を明瞭に示して下さることになりました。2冊分の内容が込められることになった、というのはそういうわけです。

「付録」には、ハイニヘンが2冊の著作で実例として取りあげた、2曲のカンタータ(チェザリーニとアレッサンドロ・スカルラッティ)を全曲、掲載しています。ハイニヘンの指示に基づいて、チェンバロ奏者の平野智美さんが、さらに創意を加えてリアリゼーションして下さった楽譜です。特にスカルラッティのほうは名曲!だそうです。ぜひ、実際に弾いてみてください。

創業以来の足跡を振り返る

10月7日発行の出版業界紙『新文化』の「この人この仕事」に、筆者(片桐文子)が取り上げられました。先ほど掲載紙が届いたばかり。担当記者が心のこもった丁寧な対応をしてくださって、記事はもちろん嬉しいことですが、やりとりそのものが楽しく、励まされました。

この9月はそのために、道和書院を引き継いでから今日までを改めて振り返り、さらに遡って創業以来の刊行物と創業者(鬼海高允・美乃里夫妻)の足跡をたどる作業をしていました。

国立国会図書館、そしてJPRO(出版情報登録センター)で公開されているデータから、創業以来の道和書院の刊行物をまとめると、このようになります。

道和書院 刊行物一覧 196904-202109

創業者夫妻がすでに物故しており、わからないことが多々あります。刊行物もおそらく他にもあるのではないかと思われます。ただ、はっきりとわかったことは、スポーツ・体育の専門出版社として、スタートから非常に精力的に、最先端の研究成果を世に問う出版活動をしていたことです。

創業者の鬼海高允は私の従兄にあたりますが、50代半ばで急逝しました。著者たちと飲みに出かけることもしばしばだったと聞いています。出版の内容・ペースを見て改めて思ったのは、高允さん、生き急いだかなぁ、ということでした(亡くなったのは私が大学生のころです)。父がもっとも頼りにしていた甥、ということくらいしか知らなかった。しかし、同業の編集者として、真に尊敬に値する人だった、と改めて思いました。

そしてもう一つ、知らなかった!と申し訳なく思ったのは、高允急逝後の妻・美乃里の、目を瞠る仕事ぶりです。高允が亡くなった年こそ刊行点数が1点のみと落ち込みましたが、その後はペースを取り戻し、二十数年にわたって営々と専門書籍の刊行を続けていました。口数が少なく、いつも穏やかな微笑みを浮かべて、会えばいつも「体に気をつけて、頑張ってね!」と励ましてくれた優しい人。そういう印象だったのですが、編集者として出版人として、自分など及ばない強さをもった人だった、と知りました。

道和書院は1999年に日本体育学会より「永年にわたる体育学及び日本体育学会の発展への多大な貢献」に対して、感謝状を頂いています。創業者・高允の没後、5年たってのことです。これはおそらく、創業以来の出版活動、そして後を継いだ美乃里の努力を称え励ますものだったのではないか、と推察しています。

そこにはもちろん、著者の方々のお力添え、取引先のご厚意(とくに創業以来今日までお世話になっている大盛印刷さん)、業務委託で編集などの実務を担って下さった方々の支え、そして高允・美乃里の子供たちの努力がありました。それがなければ、今日まで道和の歴史が続くことはなかったでしょう。

この9月で、新生・道和書院は第4期目に入りました。
創業者、そしてこれまで道和書院に関わってくださったすべての方々の思いを継いで、これからも1冊1冊、価値ありと信じる本を、世に出していければと思っています。

 

(小金井市 武蔵野公園)

電子書籍の配信開始、など

前回のブログからいつのまにかふた月が経っていました。

猛暑、コロナウィルスの感染爆発(第5波)、「東京2020」オリンピック開催、二つの台風のあとの豪雨災害と、多事多難な夏…… 
ウィルスや自然の猛威で思いがけない厄災に見舞われた方々がたくさんおられることでしょう。心よりお見舞い申し上げます。
困難をなんとか乗り切っていけますように。

 

道和書院のこの2ヶ月は………

 

6月下旬、新刊の『サッカーピラミッドの底辺から』(後藤貴浩著)が出ました。
それが大変好評で、広告、書評、SNS、等々、さまざまな動きがありました。
書評記事は今後もいくつか予定されていて、楽しみに待っているところです。

 

7月は暗転。昨年来のコロナ禍の影響が、明らかになってきました。
大学のテキスト採用が減少していることは4月~5月の動きで承知していましたが、7月はそのテキストの販売残を含めて、例年にない数の返品がありました。
書店がいかに疲弊しているかをひしひし感じます。

しかし返品が多いのは、それだけ、小社のここ数年の新刊の市場在庫が増えている(店頭に置いて頂いている本が増えている)という証左でもあります。
同じ返品とはいえ、個々の分析をしながら、ポジティブに捉えるところ、今後に活かすところを見極めているところです。

 

そんなこんなと並行して、6~8月は、ここ数年の懸案に取り組んでいました。

電子書籍の制作・配信と、サイトのスマホ対応工事です。

 

サイトのスマホ対応は、もっと早くすべきでしたが…… 
2019年末、サイト運営のご担当者にかなりの無理をお願いしてショップ機能を追加し、それに伴うあれやこれやでけっこう消耗してしまいました。
当分は本の企画制作のほうに力を注ぎたいと、気になりつつもそのまま放置(反省)。
やっと、スマホで見て頂きやすい画面になって、ほっとしています。
利用者の方々には、長らくご不便をおかけしました。

 

電子版については、「専門書は商売にならない」のが定説。
私自身は、テキスト主体の実用書を中心に、電子版も活用しています。
でも、写真や図表の多い専門書は、電子版を購入して後悔する(紙の本を買い直す)ことが多々あり。
小社の本はぜひとも紙をお勧めしたい、です、が、時代の流れに沿って、まぁ、やってみるかと重い腰をあげました。
正直なところ実験の意味合いも強く、ここ数か月の配信の動向を見て、今後、電子版の配信をどう組み立てていくか、決めたいと考えています。

この夏に電子版の配信がスタートしたのは、下記の3点です。
主要な電子書店、公共図書館等で配信しています。ご興味がおありの方は、検索してみてください。

バルトルド・クイケン『楽譜から音楽へ』(リフロー型)
日本オルガニスト協会監修『オルガンの芸術』(フィックス型)
後藤貴浩『地域生活からみたスポーツの可能性』(リフロー型)

 

『フレーセーの花』のこと

今朝のNHK-FMで、小川典子さん演奏の『フレーセーの花』(BIS/キングレコード)が放送されました。

心の準備がなかったもので、びっくり。

6月というのに今はもう真夏のような暑さ、こういうときに似合う音楽だなぁと改めて思いました。

 

『フレーセーの花』はスウェーデンの国民的作曲家の一人、ペッテション=ベリエルのピアノ小品21曲のこと。3集に分けて出版されました。

道和書院ではこの21曲を1冊にまとめた楽譜を2018年に刊行しています。

運指=小川典子

解説=加勢園子(ストックホルム・エステルマルム音楽アカデミー院長)

装画=沙羅(アトリエ灯)

 

2018年といえば、まだ私が事業承継する前、道和書院に転職してまだ3年経たないころです。楽譜は不採算であることは覚悟の上で制作をさせて頂いたこと、当時の道和書院社長には感謝のほかありません。

 

そして、この楽譜が成立するかどうか、カギを握っていたのが……

超・多忙な有名ピアニスト、小川典子さんでした。

ぜひお願いできないでしょうか、と、恐るおそるおたずねしたところ、二つ返事でご快諾いただいて、あの時の嬉しさ、感激は忘れられません。

 

話せば長いことながら、この出版に至るまでは、いくつかの物語がありました。

それがいつの間にか一つにまとまって、形になったのがこの楽譜。

 

一つはスウェーデンとの縁。

前職で、聖路加国際病院の故・日野原重明先生とご縁ができ、何冊かの本を編集させて頂きました。あるとき、日野原先生が定期的に行っていらした海外へのスタディ・ツアーに参加することになり、訪問した先がスウェーデン。

スタディ・ツアーでは緩和ケアの現状や、スウェーデン独自の音楽療法(FMT)、障がいのある子供たちの音楽教育などを見て回りました。

毎日、朝から晩まで、文字通り「スタディ」。

強行軍でしたが充実した楽しい旅でした。

 

スウェーデンの清涼な空気、明るく柔らかな光。

そして北欧ならではのインテリア、テキスタイルの洒落たデザイン。

彼の地の人たちが生活を楽しむ達人であることを強く感じました。

 

その案内役を務めて下さったのが、現地で結婚され、音楽院を経営しているピアニスト・加勢園子さんでした。

 

そして小川典子さんも、前職の在職中にお付き合いが始まりました。

ご一緒した仕事で忘れがたいのが、英国のピアニスト、スーザン・トムズさんの著作『静けさの中から』の翻訳。これは、多忙な小川さんから翻訳原稿が送られてくるプロセスからしてわくわくの楽しさでした。

 

あるときリサイタルのCD売り場で、珍しいと思って購入させて頂いたのが『フレーセーの花』でした。

スウェーデンの伝統あるレーベルBISの専属となった、若き日の小川さんの笑顔のジャケット。溌剌とした演奏。

 

なんて綺麗な曲なんだろうと、楽譜を取り寄せて練習し、ある会で弾いてみたところ評判は上々。楽譜がほしいと言われました。

 

ところが3冊に分かれた楽譜(当時)がそれぞれ数千円と高額。

私はどうしても弾きたいと買ったけれど、人にはとても勧められない。これでは普及するわけがない。

いつかまとめて、解説もつけて、廉価で出版したいという夢が生まれました。

 

確かそれは、1990年代末のことだったと思います。

 

まだまだ、語りたいことはあるのですが……特に、装画をしてくださった沙羅さん(調布音楽祭のアーティスト・イン・レジデンス)のことなど……長くなりすぎるので、今回はこのへんで。

 

新刊の書誌情報を公開しました

3月刊行の『スキー研究 100年の軌跡と展望』(日本スキー学会編)に続き、スポーツ分野の新刊が6月25日に発売となります。

後藤貴浩(著)
『サッカーピラミッドの底辺から--少年サッカークラブのリアル』

内容の紹介は、下記をご覧いただければ幸いです。
https://www.douwashoin.com/%e3%82%b5%e3%83%83%e3%82%ab%e3%83%bc%e3%83%94%e3%83%a9%e3%83%9f%e3%83%83%e3%83%89%e3%81%ae%e5%ba%95%e8%be%ba%e3%81%8b%e3%82%89/


今回も、良い本の出版に携わることができて幸せです。


選手・指導者としてサッカーに人生を賭けてきた著者が、一方でスポーツ社会学者として、地域の人と暮らしという観点から、スポーツの意味、未来のあり様を問い直しています。
これは、サッカー、スポーツに限らず、日本社会のすべての領域(音楽も!)に言えること。
共鳴しながら編集作業を進めてきました。

編集部での校正刷の作業がすべて終了し(校了)、印刷所での作業に移るころ、オンライン上で、取次・書店(ネット書店を含む)に向けて最終的な書誌情報を公開する手続きがあります。
公開と同時にネット書店では予約受付が始まり、図書館流通センターからも程なく、最初の発注が届きます。

校了と書誌情報の公開と。この時期が最大の山場。
終えるとようやくひと息、どっと疲れが出ます。

でも、疲れているのに気持ちのほうは、校了に向けて集中してきた緊張感がなかなかほぐれず、そして本が新しく出来てくるワクワク感で、興奮状態。

数日間は、疲れと興奮がせめぎあって、どうにも落ちつかない日々を過ごします。

やらねばと次の仕事に手をつけるものの、能率の悪いことこの上ない。

 

よし、休もう。

不義理と、仕事の遅れへの申し訳なさはとりあえず脇に置く。

新しい本の校了をしみじみ喜び、未来に向けてきっと大きな反響を呼ぶことを確信しながら、しばらく、幸せな時間に浸ることにします。

『オルケゾグラフィ』書評もうひとつ

「日本チェンバロ協会 年報 2021」(5月10日刊行)の書評に、トワノ・アルボーの『オルケゾグラフィ』が取り上げられました。
評者は平山詢子さんです。

 

評者の平山絢子さんはチェンバロの演奏家であり、バロックダンスの舞踏家としても活動されています。
『オルケゾグラフィ』の内容を丁寧に紹介し、邦訳や解説の細部の記述も取り上げて、音楽家・舞踏家の双方の視点からコメント・評価をして下さっています。

 

「本書の意義は、舞踏に関する基礎文献の全訳という意味にとどまらず、こうした細部--字面の訳出だけでは到底理解に及ばない、歴史的・文化的な背景--を明らかにした点にあると言えよう」

 

たいへん嬉しい評を、心より感謝申し上げます。

 

なお、日本チェンバロ協会年報は市販もされており、会員以外の方でも読むことができます。
特集記事、研究論文、インタビューや座談会、海外レポート、楽譜や録音物の紹介など読みごたえ十分、組版も大変美しい会誌で、筆者(片桐)は2013年の創刊号から愛読しています(刊行後1年経った号は協会サイトからPDFもダウンロード可能)。

今号では初めて、巻末に、小社の出版物の広告を出校しております。
音楽書を出版し始めた当初から出校のお誘いを頂いていましたが、刊行点数が少ないこともあり、これまで実現できませんでした。
その意味でも大変嬉しい、最新号です。

 

*日本チェンバロ協会サイト

https://japanharpsichordsociety.jimdofree.com/

*年報は市販されています。下記はhontoの販売サイト。

https://honto.jp/netstore/pd-book_30964706.html

*『オルケゾグラフィ』チラシ

全23件中 1~10件目を表示