『同じ月を見あげて』
新刊
『同じ月を見あげて --ハーモニーで出会った人たち』
新澤克憲(著)
ゴールデンウィーク直前の発売となりましたが、多くの方々から反響を頂いています。
いちばん嬉しいのは、精神疾患を抱える当事者が、歓迎して下さっている様子であること。
著者の新澤克憲さんに対する、当事者の、そして周囲の協力者の方々の、深い信頼を感じます。
わたし自身のささやかな経験からですが、精神疾患を抱える人たちは、相手の嘘や、表面的な取り繕い、建前、言い訳、等々、「言葉とは裏腹の本心」に実に敏感です。
もともと繊細な感受性の人が多いのでしょうし、病気のせいで、「健常者」の想像を遥かに超える辛酸を舐めてきた… 言い尽くせない苦労を経験してきた、ためかもしれません。
彼らに対しては、いつも正直に、率直に、本心からの言葉と態度で向き合わないと、信頼を得られない。
新澤さんの文章を読んですぐに、これはすごい! とわたしが思ったのは、その率直さです。
率直で嘘の無い文章を書くのは、レトリックを駆使するよりも、実は難しいかもしれません。
小さな言葉一つ一つにゆきわたる繊細な配慮、相手の内面に対する洞察力、それを的確に表現する文章力…
精神疾患の当事者のことを書くわけですから、個人情報の扱いその他さまざまな配慮が必要で、時には「リアル」をぼかすフィクションも必要です。
しかし、フィクションがあっても、ここには確かに、「嘘が無い」。
不思議なことですが、当事者の家族として、これはまさに真実の物語、と思えたのでした。
新澤さんが長年にわたって「体当たり」で、いえ、体だけではなく「全人格で」当事者に向き合ってきた時間の積み重ねが、この本に凝縮されています。
この本を出させて頂けて良かった、と、しみじみ、じわじわ、思っております。
- 「バレエを真の芸術に ーノヴェールの願い」前の記事→
- ←次の記事「版元からの献本・謹呈について」